【太平洋 vs 大西洋】バチマグロの産地で何が違う?身質と脂をデータで比較

2025年12月現在、バチマグロの仕入れ市場は極めて厳しい状況に直面しています。為替相場は1ドル157円台で推移しており(※1)、輸入バチマグロの仕入れコストは大きく上昇しています。さらに、中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)による漁獲規制の継続により、供給量は限定的な状態が続いています(※2)

このような高コスト環境で利益を確保するには、産地の特性をデータに基づき理解し、コストと価値を適切に見極めるスキルが求められます。太平洋産と大西洋産、それぞれのバチマグロが持つ違いを正しく理解することで、用途に応じた戦略的な仕入れが可能になります。

太平洋産バチマグロ:鮮やかな発色と色持ちの良さ

太平洋産バチマグロの最大の特徴は、解凍後も長時間持続する鮮やかな赤色です。

日本近海や中西部太平洋で漁獲されるバチマグロは、深海と表層を激しく往来する垂直移動を繰り返しています(※3)。この運動を支えるため、筋肉中には酸素を蓄える色素タンパク質「ミオグロビン」が豊富に含まれています。カット後、このミオグロビンが空気中の酸素と結合することで、濃く鮮やかな赤色が現れます。

太平洋産が評価される理由は、この「色持ちの良さ」にあります。解凍してから48時間以上経過しても黒ずみにくいため、スーパーのパック販売や回転寿司など、陳列時間が長い業態で廃棄ロスを削減できます。値下げ販売に追い込まれるリスクが低く、実質的な粗利率の向上につながります。

主な漁場と特徴

  • 主な漁場: 三陸沖、銚子沖、マーシャル諸島近海
  • 旬: 10月〜12月(特に「東沖もの」と呼ばれる日本近海産)
  • 身質: 緻密で適度な酸味を伴う深い味わい
  • 最適用途: パック販売、テイクアウト、回転寿司など陳列時間が長い業態

大西洋産バチマグロ:豊かな脂と中トロの歩留まり

大西洋産バチマグロは、バチマグロとしては珍しい「脂の乗り」が最大の特徴です。

カナリア諸島沖やアンゴラ沖などの大西洋漁場は、太平洋に比べて水温が低い海域です(※3)。この冷たい環境に適応するため、バチマグロは皮下だけでなく筋肉の層にも脂肪を蓄積します。通常のバチマグロは赤身主体ですが、大西洋産の一部個体では、クロマグロのような「サシ」が入り、中トロに近い部位が形成されます。

この脂は不飽和脂肪酸を多く含み、融点が低いため、口の中で滑らかに溶けていきます。クロマグロが高騰する現在の市場環境において、大西洋産バチマグロは「比較的安価な中トロ商材」として、寿司店や海鮮丼専門店で重宝されています。

注意すべきポイント

ただし注意点もあります。脂が多い分、酸化も早く進みます。ラスパルマスなどの拠点から空輸される個体は、マイナス60度の急速冷凍技術や徹底した温度管理により品質を保持していますが、解凍後は早めの提供が求められます。提供から喫食までの時間が短い、店内飲食向けの商材と考えるべきでしょう。

主な漁場と特徴

  • 主な漁場: カナリア諸島沖、アンゴラ沖
  • 特徴: 筋間に脂肪を蓄積し、中トロ部位の比率が高い
  • 品質管理: マイナス60度の急速冷凍技術による鮮度維持
  • 最適用途: 店内飲食、カウンター寿司、高級海鮮丼など即時提供される業態

バイヤーが知るべき価格決定の主な3要因(2025年版)

バチマグロの仕入れ価格を左右する要因は、大きく3つあります。

1. 為替レート:157円台の歴史的円安

2025年12月19日現在、1ドル157円台という円安水準は、輸入バチマグロの円建てコストを直接的に押し上げています(※1)。大西洋産をはじめとする冷凍輸入品の価格上昇は避けられません。輸入依存度の高いバチマグロ市場において、この為替影響は最大のコスト要因となっています。

2. 国際的な漁獲規制の厳格化

WCPFCやICCATといった国際機関は、集魚装置(FADs)を用いた小型魚の漁獲を制限しています(※2)(※4)。これにより大型個体の供給が限定され、卸売価格の高止まりを招いています。資源保護の観点から必要な措置ですが、短期的には供給制約として機能しています。

3. クロマグロ高騰による代替需要の流入

本マグロ(クロマグロ)が高騰する中、量販店や外食チェーンはバチマグロへシフトしています。特に脂の乗った大西洋産への引き合いが強く、相場を下支えする要因となっています。この代替需要は構造的なものであり、当面継続すると見られます。


【独自見解・プロの視点】歩留まりから見た仕入れ判断

「太平洋は赤身、大西洋は脂」という基本知識は、仕入れを考える上での出発点です。より専門的な視点では、産地ブランドのさらに先、用途に応じた「歩留まり」の最適化が重要になります。

なぜなら、キロ単価だけで判断すると、実質的な利益を見誤る可能性があるからです。大西洋産は太平洋産より10%高くても、中トロとして販売できる部位が15%多ければ、トータルの粗利額は大西洋産が上回ります。逆に、スーパーで長時間陳列する場合、安価でも変色の早い商材は値下げや廃棄により利益を圧迫します。

具体的なアクションプラン

1. 「色持ち定点観測」によるデータ蓄積

仕入れ先(船団・産地)ごとに、以下の項目を記録することを推奨します。

  • カット後の変色開始時間(何時間で赤みが退色し始めるか)
  • 解凍時のドリップ率(水分流出量の%)
  • 48時間後の色の維持率(目視評価またはL*a*b*値測定)

2. 「中トロ歩留まり率」の算出

太平洋産と大西洋産で、中トロとして販売可能な部位が何%取れるかを比較します。1本あたりの中トロ取得量を記録することで、「単価は高いが総利益は大きい」という判断が可能になります。

3. 「用途別仕入れ基準」の策定

上記データに基づき、以下のような使い分け基準を明確にします。

  • 長時間陳列(スーパー・量販店): 太平洋産を採用。色持ちを最優先し、廃棄ロスを最小化。
  • 即時提供(外食・寿司店): 大西洋産を採用。脂の旨味を活かし、高付加価値メニューとして展開。

【結論】

この「自社独自の基準」は、価格交渉や優良な供給者を選定する際の判断材料となります。157円という厳しい円安環境だからこそ、経験と勘だけでなく、データに基づいた戦略的な買い付けが求められています。


■まとめ:用途に応じた産地の使い分けが利益を最大化する

本記事では、太平洋産と大西洋産バチマグロの違いと、2025年現在の市場環境における価格決定要因について解説しました。

  • 太平洋産バチマグロ: 鮮やかな発色と色持ちの良さが特徴。スーパーのパック販売やテイクアウトなど、陳列時間が長い業態に最適です。
  • 大西洋産バチマグロ: 脂の乗りと中トロの歩留まりが特徴。店内飲食や寿司店など、提供後すぐに喫食される業態で高い価値を発揮します。
  • 価格変動要因: 1ドル157円台という円安水準、国際的な漁獲規制、そしてクロマグロからの代替需要という3つの要因が仕入れ価格に影響しています。

単純なキロ単価ではなく、用途に応じた歩留まりを意識することで、利益を最大化する仕入れが可能になります。厳しい相場環境ですが、産地特性を理解し、データに基づいた戦略的な判断を行うことが、年末商戦を乗り切る鍵となるでしょう。


■よくある質問(FAQ)

Q1: バチマグロとキハダマグロの使い分けは?
A1: 主な違いは脂と色持ちです。キハダは脂が少なくあっさりした味わいで、変色にも強いのが特徴です。ボリューム重視の盛り合わせや、関西以西の嗜好に合います。一方、バチは適度な脂とコクがあり、年末年始のような「ご馳走感」を演出したい場合に適しています。
Q2: 冷凍バチマグロを美味しく解凍するコツは?
A2: 温塩水解凍を推奨します。約40℃の塩水(塩分濃度3%程度)に数分浸し、表面の汚れと酸化膜を洗い流します。その後、冷蔵庫でじっくり解凍することで、ドリップを最小限に抑え、バチマグロ本来の鮮やかな赤色を引き出せます。急激な温度変化を避けることが、食感と発色を保つポイントです。
Q3: 円安は国産バチマグロにとって有利ですか?
A3: 相対的には有利な環境です。輸入品の価格が上がるため、国産への引き合いは強まります。ただし、漁船の燃料費や資材費も高騰しており、国産価格そのものも上昇傾向にあります。結論として、輸入・国産双方の価格と供給量のバランスを継続的に注視する必要があります。

執筆者・監修者情報

執筆者: 宮田 貴広(マーケティング担当者)
最新の市場動向とデータ分析を基に、水産業界のビジネスに貢献する情報発信を心がけています。

監修者: 成川 晃(鮮魚担当35年)
店舗や市場での勤務経験を含め、35年以上にわたり鮮魚の目利きと仕入れを担当。マグロ類に関する豊富な知識と実務経験を持つ。