「夏の赤身」と「冬の脂」の特性を理解し、利益向上を目指す戦略的購買アプローチ






マグロ仕入れの新たな視点|夏の赤身と冬の脂の特性を理解する



マグロ仕入れの新たな視点:「夏の赤身」と「冬の脂」の特性を理解し、利益向上を目指す戦略的購買アプローチ

更新日:2025年12月23日

導入:なぜ今、マグロの「旬」を再考する必要があるのか

2025年12月23日現在、円安傾向や燃油費の高騰は、水産物の仕入れ価格に影響を与え続けている要因の一つです。特にマグロは、価格動向が収益に影響しやすい重要な商材です。

このような状況で利益を確保していくには、価格交渉だけではなく多角的なアプローチが求められます。その一つとして、マグロの「旬」という言葉の背景を理解し、季節ごとの身質の特性を科学的な視点から捉え、その価値を訴求していく「知識」と「戦略」が有効と考えられます。

本記事では、多くのバイヤーが日々の業務で実践しやすい、データに基づいた戦略的な仕入れ・販売手法について解説します。

1. 夏マグロの価値:「さっぱり」は劣化ではない!赤身の凝縮された旨味を活かす視点

一般的に、夏のマグロは産卵を経て脂が控えめになる分、赤身本来の濃厚な味わいを楽しむことができるとされています。

なぜ夏マグロは旨味があるのか?

本マグロ(クロマグロ)をはじめとする多くのマグロは、春から夏に産卵期を迎えます(※1)。産卵にエネルギーを費やすため、体内の脂質は減少する傾向にあります。これが「夏マグロはさっぱりしている」と言われる理由の一つです。

しかしこれは、品質の劣化を意味するものではありません。むしろ、赤身の旨味成分である鉄分やアミノ酸が凝縮され、もっちりとした食感と、深い味わいが特徴とされます。

夏の商材となりうるマグロ

本マグロの漁獲が落ち着く夏から秋には、キハダマグロやメバチマグロが流通の主役の一つとなります。これらは熱帯・亜熱帯域を活発に泳ぎ回るため、筋肉質で引き締まった身が特徴です。価格も比較的安定している傾向にあり、夏の主力商材として活用しやすいでしょう。

【実践】夏マグロの価値を高める販売アクションの提案

「脂が少ない」という事実を「高タンパク・低脂質」といった健康志向の価値として訴求する方法が考えられます。

  • メニュー提案の具体化: カルパッチョ、ポキ、香味野菜をたっぷり使った和風サラダなど、爽やかなメニューを写真付きで提案します。
  • 「オイル提案」による価値の付加: 良質なオリーブオイルやごま油をセットで推奨し、「オイルをかけることで完成する、新しいマグロの楽しみ方」を提案。オイルのコクが赤身の旨味を引き立て、冬のマグロとは異なる需要の創出が期待できます。

2. 冬マグロの魅力:脂の風味を「ご馳走」として訴求する

冬のマグロは越冬に備え、体に脂を蓄えるため、その豊かな風味から「ご馳走」として扱われることが多くなります。

脂が乗るメカニズムについて

秋から冬にかけ、マグロは水温の低い海域を回遊するため、皮下や筋肉に脂肪を蓄える傾向があります。特に、イワシやサンマといった脂質の多い餌を捕食すること(※2)で、身全体にきめ細かなサシ(脂肪)が入りやすくなります。

この脂肪には、旨味成分のイノシン酸や甘み成分のグリコーゲンなどが含まれ、口の中で広がる食感や、芳醇な香りを生み出す要因の一つとされています。

冬に注目されるマグロ

冬の主役の一つは、本マグロです。特に津軽海峡で獲れる青森県大間産や北海道戸井産は、世界的に高い評価を得ているブランドとして知られます。また、南半球が冬の時期に漁獲されるミナミマグロ(インドマグロ)も、濃厚な脂と赤身のバランスが良く、冬の商材として高い人気があります。

【実践】年末商戦に向けた価格戦略の一案

大トロや中トロは、冬マグロの価値を象徴する部位です。2025年11月末の豊洲市場データによると、国産本マグロの卸売価格は前年同期比で上昇傾向にあり(※3)、年末に向けて価格が変動する可能性も考えられます。

これらの希少部位を目玉商品として扱うだけでなく、その希少性や品質の高さを背景と共に伝え、「贈答用」や「特別な日のメニュー」といったポジションで訴求することが有効です。これにより、価格への納得感を高め、利益の向上につなげることが期待できます。

3. 【2025年】気候変動とSDGs — 仕入れにおける新たな視点

近年、海水温の上昇が回遊ルートに影響を与え、従来の「旬」や「産地」の常識に変化が生じている可能性が指摘されています。

変化する海の常識

気象庁が2025年11月に発表したデータによると、日本近海の平均海水温は過去30年で上昇傾向にあります(※4)。この影響で、本来南方に生息するとされるキハダマグロが北海道沖で水揚げされるなど、従来の常識だけでは捉えきれない状況も生まれています。

これからのバイヤーに求められるスキル

このような状況下で重要となるのは、固定観念にとらわれない柔軟な視点です。産地や時期という情報だけに頼るのではなく、日々の漁獲情報や市場データを定点観測し、自身の目で個体ごとの脂の乗り、身の色沢、締まり具合などを見極める能力が、仕入れの精度に大きく影響します。

「MSC認証」はコストか、未来への投資か

消費者の持続可能性への関心は、購買における選択基準の一つになりつつあります。MSC(海洋管理協議会)認証(※5)のように、資源と環境に配慮した漁業で獲られた水産物への需要は、年々高まる傾向にあります。MSC認証マグロを積極的に扱うことは、企業の社会的責任(CSR)を意識した活動であると同時に、環境意識の高い新たな顧客層にアプローチするための、有効なマーケティング戦略の一つと考えられます。

独自見解・プロの視点:バイヤーは「編集者」としての視点を持つ

季節による身質の違いを「優劣」で判断するだけでなく、夏と冬、それぞれが持つ「個性」と捉え、その価値を定義し直す「編集力」とも言える視点が、現代のバイヤーにとって重要なスキルの一つです。

画一的な価値観に固執せず、目の前のマグロのポテンシャルを引き出す。それがプロフェッショナルに求められる姿勢の一つと言えるでしょう。

具体的なアクションプランの例として、以下の3つを挙げます。

  1. 「夏マグロ」のブランディング戦略:

    • 価値の再定義: 夏マグロを「赤身の極み」「夏のルビー」といったキャッチーな名称でプロモーション。「高タンパク質」「さっぱりとした味わいで、夏場の食卓にも」といった、健康的なイメージを前面に出したストーリーで訴求します。
    • 販売促進: 店頭POPで「さっぱりとした味わいは、清涼感のある日本酒や白ワインともよく合います」と具体的なペアリングを提案。SNSでは「#夏マグロ」といったハッシュタグで、消費者の関心を引くキャンペーンを展開します。
  2. 体験を売るメニュー提案:

    • 食べ方の再定義: さっぱりした身質に合うカルパッチョやポキを、「なぜこの食べ方が夏マグロに適しているのか」という理由と共に提案します。「良質なオイルが赤身の風味と組み合わさり、新しい味わいの広がりが期待できます」といった説明を添えることで、説得力が増し、顧客の試したいという意欲を喚起しやすくなります。
  3. 信頼を築く情報発信:

    • 透明性の確保: 気候変動による漁獲状況の変化や、MSC認証のような持続可能性への取り組みを、ウェブサイトやSNSで発信。「私たちは、未来の海を守る活動を支持しています」といったメッセージは、企業のブランドイメージ向上に貢献します。これにより、価格以外の価値で顧客との長期的な信頼関係を構築する基盤となり得ます。

産地や時期という過去の情報に依存するだけでなく、目の前のマグロの品質を評価し、その個性に合わせた価値を創造し、顧客に届ける。それこそが、これからの時代を勝ち抜くバイヤーに求められる、重要なスキルの一つです。

まとめ

本記事では、マグロの仕入れにおいて、従来の「旬」という概念を再考し、利益向上を目指すための戦略的アプローチを解説しました。

  • 夏のマグロ: 産卵後の「さっぱりした赤身」という特性を、「高タンパク・低脂質」という健康志向の価値や、オイルと組み合わせる新しい食べ方の提案によって魅力化できます。
  • 冬のマグロ: 越冬のために蓄えた「脂の風味」を、「特別な日のご馳走」として希少性と共に訴求することで、価格納得感を高め、収益性を確保します。
  • 新たな視点: 気候変動による漁獲状況の変化に対応するため、データに基づいた柔軟な判断力が必要です。また、MSC認証などの持続可能性への配慮は、企業の信頼性を高める未来への投資となり得ます。

季節ごとの身質の違いを「優劣」ではなく「個性」と捉え、その価値を再定義する「編集者」としての視点を持つこと。それが、変化の激しい現代において、安定した利益を生み出すための鍵となるでしょう。

よくある質問 (FAQ)

Q1: やはり一番おいしいマグロは冬の大間の本マグロですか?
A1: 「おいしさ」の基準は人それぞれです。濃厚な脂の甘みが好きな方にとっては、冬の本マグロが有力な選択肢となるでしょう。しかし、赤身本来のさっぱりとした深い味わいを好む方であれば、夏のメバチマグロなどが良い選択肢になることもあります。季節ごとの「個性」として楽しむのが一つの考え方です。
Q2: 「冷凍マグロ」は「生マグロ」より品質が劣るのですか?
A2: 一概にそうとは言えません。船上で漁獲直後に-60℃以下で急速冷凍された「ワンフローズン」と呼ばれるマグロは、細胞破壊が抑えられ、鮮度と品質が高いレベルで保たれている場合があります。輸送時の温度管理によっては、生マグロよりも適切に管理された冷凍マグロの方が高品質なケースも少なくありません。
Q3: なぜ近年、マグロの価格は上昇傾向にあるのですか?
A3: いくつかの要因が考えられます。世界的な和食ブームによる需要増、資源保護のための漁獲規制強化、そして2025年現在も続く円安傾向や燃油費高騰による操業コストの上昇、さらには漁師不足などが主な要因として挙げられます。これらの要因が複合的に影響し、価格に反映されていると考えられます。

執筆者・監修者情報

執筆者: 宮田 貴広(マーケティング担当)
最新の市場動向とデータ分析を基に、お客様のビジネスに貢献する情報発信を心がけています。

監修者: 成川 晃(鮮魚担当)
店舗や市場での勤務経験を含め、38年以上にわたり鮮魚の目利きと仕入れを担当。水産物各種に関する豊富な知識と経験を持つ。

参考文献・参照リンク