なぜ、今「港」ではなく「漁場」で魚を選ぶべきなのか?

2025年12月。世界の海洋環境は、変化の速度を増しています(※6)。かつての優良漁場がその姿を変え、水産資源の未来は不確実性を増しています(※1)。国際社会はIUU(違法・無報告・無規制)漁業への監視を強め(※4)、消費者の目は、その魚がどこから来たのかを示す「トレーサビリティ」へと、かつてなく厳しく注がれています。

このような時代に、「有名な港で獲れた魚だから」という従来の考え方に依存し続けることは、ビジネスリスクに繋がり得ます。

私たち北水は、この変化に対応する鍵が「漁場」にあると考えています。なぜ「港」という点ではなく、「漁場」という面で捉えるべきなのか。その具体的な考え方と方法論を提示します。

「港ブランド」を再考する

1. 「港」と「価値」は必ずしも一致しない

「〇〇港のサバ」というラベルは、分かりやすい指標の一つです。しかし、それは必ずしも魚の品質を保証するものではありません。同じ港に水揚げされても、漁船、時期、そして決定的に重要な「どこで獲ったか」で、魚の価値は大きく異なる可能性があります。温暖化で海水温は上昇し(※5)、魚の回遊ルートは変化しています。港は流通のハブであり、品質そのものを保証するものではないのです。

2. 「船団」による品質の差

同じ港を拠点とする船でも、漁法や船上での処理技術(活け締め、冷却方法など)は様々です。高い品質管理を行うプロもいれば、そうでない場合もあります。「〇〇港産」というラベルでこれらを一括りに仕入れることは、品質にばらつきのある原料を仕入れてしまうリスクを伴います。

3. 流通における情報の不透明性

一度市場に出ると、その魚が「いつ、どこで、誰が、どのように獲ったか」という重要な情報が追えなくなることがあります。手元には「港の名前」という情報しか残らないケースも少なくありません。より確かな品質管理のためには、さらなる情報が求められます。


品質は「漁場」にあり―科学的アプローチによる3つの重要要素

要素1:海水温・潮流が「身質」に与える影響

魚の身の締まりや脂の乗りは、生育環境に大きく依存します。例えば、冷たく速い潮流で育った魚は、身が引き締まり、上質な脂を蓄える傾向があります。私たちは、JAXAなどが提供する衛星のリアルタイム海水温・海流データ(※2)なども参考に、より良い環境を持つ漁場を特定しています。

要素2:プランクトンが「風味」を左右する

魚の風味は、その魚が何を食べてきたかに大きく影響されます。特定の海域に存在するプランクトンの種類や栄養価が、魚の味や脂の質を左右する一因となるのです。海洋生物学の知見に基づき、良質な餌が豊富な漁場を継続的に監視することが、より良い味を引き出す鍵となります。

要素3:生態サイクルが「旬」の判断基準となる

産卵前に魚が栄養を蓄えることは広く知られていますが、そのタイミングを精度高く見極めることが重要です。魚種ごとの生態、産卵期、回遊ルートを深く理解し、価値が高まるタイミングで漁獲できるよう、漁場と時期を管理することが求められます。これも、科学的アプローチに基づいた調達の一例です。


未来を見据えた調達戦略―北水メソッド

アクション1:衛星データとAIによる漁場予測

過去の漁獲データ、リアルタイムの海水温、塩分濃度、プランクトン分布。これらの情報をAIで分析し、有望な漁場を予測します。これにより、勘や経験だけに頼らない、客観的な漁場選定に繋がります。

アクション2:現場からの「生きた情報」の活用

テクノロジーに加え、現場からの情報も重要です。全国の信頼できる漁師たちと築いたネットワークから得られる日々の漁獲状況や魚の状態に関するリアルタイムなフィードバックが、AIの予測精度をさらに引き上げ、最終的な判断を補強します。

アクション3:ブロックチェーンによる「透明性」の追求

どの漁場で獲れた原料が、いつ、どの工場で、どのように加工され、どの製品になったのか。この全工程をブロックチェーン技術で記録・管理する取り組みを進めています。これにより、改ざんが困難なトレーサビリティの確立を目指し、バイヤーと最終消費者により高い安心感を提供します。

■プロの視点:それは「調達」であり、企業の「事業継続計画(BCP)」でもある

「漁場」へのこだわりは、単なる品質追求に留まりません。これは、気候変動や地政学リスクといった予測しにくい脅威に対する、企業の「事業継続計画(BCP)」の一環とも言えるでしょう。

特定の港や国に依存するビジネスモデルは、不測の事態に対して脆弱である可能性があります。赤潮、外国船による漁獲状況の変化、局所的な海洋汚染など、一つの事態でサプライチェーンが影響を受けることも考えられます。

しかし、常に最適な「漁場」をグローバルな視点で探す体制があれば、一か所で問題が起きても、代替となる原料を確保しやすくなります。これこそがサプライチェーンの強靭化(レジリエンス)であり、不安定な時代において重要となる戦略です。

これからの調達担当者は、価格交渉だけでなく、サプライチェーン全体のリスクを管理する「リスクマネージャー」としての役割が求められます。サプライヤーに対し、目先の価格だけでなく、以下の「3つの戦略的質問」を投げかけてみてはいかがでしょうか。

【サプライヤーへの3つの戦略的質問】

  • 「主要漁場が機能不全に陥った際の、具体的な代替漁場と供給計画(リードタイム、コスト変動率の見込みを含む)を提示いただけますか?」
  • 「漁獲証明(漁船名、漁場座標、日時)から最終製品までのロットを追跡できる、貴社のトレーサビリティシステムを実演いただけますか?」
  • 「MSC認証(※3)等の国際基準に加え、貴社独自の生態系保護(混獲防止策、海底環境への影響評価等)について、第三者が検証可能なデータと共に説明いただけますか?」

これらの質問に明確に答えられるサプライヤーこそが、長期的なパートナーとして信頼できるでしょう。

■まとめ:変化に対応し、未来を切り拓く調達戦略へ

本記事では、魚の原料調達における新たな視点として、「港」ではなく「漁場」に注目すべき理由を解説しました。

  • 「港ブランド」の限界: 有名な港というだけでは、気候変動下の品質のばらつきやトレーサビリティの課題に対応できません。
  • 品質の源泉は「漁場」: 魚の味や身質は、育った海の環境(海水温、プランクトン、生態サイクル)に科学的に左右されます。
  • 未来の調達戦略: データ(衛星、AI)と現場の知見を組み合わせ、ブロックチェーンで透明性を確保することが、安定した高品質な原料調達とサプライチェーンの強靭化に繋がります。

これからの時代、調達担当者にはサプライチェーン全体のリスクを管理する視点が不可欠です。本稿で提示した考え方が、貴社の事業継続計画(BCP)と持続的な成長の一助となれば幸いです。


■よくある質問 (FAQ)

Q1: 漁場で本当にそんなに味が違うのですか?
A1: はい、異なる場合があります。例えば同じマアジでも、育った海域の潮流や餌によって脂の乗りと身質が変わる傾向があります。生育環境が品質に影響を与えると言えます。
Q2: 漁場の特定は素人には難しいのでは?
A2: はい、専門的な分析が求められます。私たちは、公的機関の衛星データ(※2)、提携漁師からの生情報、過去の統計データをAIで統合分析するなどのアプローチをとっています。個人の経験則だけに頼るのは難しい領域です。
Q3: 消費者はどうやって漁場を意識すればいいですか?
A3: 現状、小売店での表示は限定的ですが、方法は2つあります。1つは、製品のQRコード等でトレーサビリティ情報を公開している企業を選ぶこと。もう1つは、信頼できる鮮魚店の専門家に直接尋ねてみることです。「この魚は、どこの海で育ったものですか?」と。

執筆者・監修者情報

執筆者: 宮田 貴広(マーケティング担当)
最新の市場動向とデータ分析を基に、お客様のビジネスに貢献する情報発信を心がけています。

監修者: 成川 晃(鮮魚担当)
店舗や市場での勤務経験を含め、38年以上にわたり鮮魚の目利きと仕入れを担当。水産物各種に関する豊富な知識と経験を持つ。