【2025年版】プロが注目する「高品質マグロ」の世界地図と今後の展望

【2025年版】プロが注目する「高品質マグロ」の世界地図と今後の展望

はじめに:マグロの世界地図は、変わりつつある

2025年12月1日、私たちが知っていたマグロの世界地図は、気候変動と国際規制によって大きく変わりつつあります。北大西洋や南太平洋で新たな漁場が注目される一方、伝統的な漁場はそのあり方の見直しを迫られています。

これからは「産地」という従来の概念に加え、漁獲された「海域」で価値を判断することがより重要になります。本記事では、最新のデータに基づき、世界の高品質マグロ漁場の「今」と「未来」を、具体的なアクションプランと共に解説します。

2025年、高品質マグロ漁場の現在地

伝統的な漁場は今も健在ですが、海水温の上昇などを背景に「新興エリア」の重要性が増しています。

2025年現在、高品質マグロの漁場が特定の大海域に集中する構図に大きな変化はありません。しかし、その内訳は変化しており、特に海水温の上昇がマグロの回遊域に影響を与えている可能性が指摘されています。

大西洋クロマグロ(本マグロ)

  • 伝統漁場:ボストン沖、スペイン沖、地中海(マルタ、クロアチア沖)は依然として重要な漁場ですが、資源管理は極めて厳格です(※2)。

太平洋クロマグロ(本マグロ)

  • 日本近海:日本の孵化・飼育技術研究などにより、資源量は回復傾向にあります(※1)。しかし、WCPFC(中西太平洋まぐろ類委員会)による国際漁獲枠は依然として厳しく、安定供給には課題も残ります(※3)。
  • メキシコ沖:蓄養マグロの主要な供給基地としての地位を確立しています。日本市場向けに特化した品質管理体制が構築されている点が特徴です。
    (※蓄養:自然界の若魚を捕獲し、生簀で成魚まで育成する手法)

ミナミマグロ(インドマグロ)

  • 主要漁場:オーストラリア・ポートリンカーン沖と南アフリカ・ケープタウン沖が二大漁場です。特にオーストラリア産は、徹底した品質・トレーサビリティ管理で世界的に高い評価を得ています。漁獲枠が厳しく管理されており、その希少性が価格に反映される傾向があります。

漁場変動の主な要因:気候変動と国際規制

海水温の変化と厳格な漁獲枠が、漁場の「高緯度化」や「再編」を促していると考えられます。
マグロ漁場の未来を展望するには、この二つの大きな要因を理解することが重要です。

1. 海水温上昇がもたらす地球規模の影響

海水温の上昇は、マグロの生息域だけでなく、餌となるプランクトンや小魚の分布にも影響を与えます。結果として、マグロの群れはより適した環境や豊富な餌を求め、従来あまり見られなかった高緯度地域へと回遊ルートを拡大・変更している可能性が指摘されています。
近年の分析では、過去10年で主要魚種の回遊ルートが平均で数十キロメートルも極方向へ移動したという報告もなされています(※4)。

2. ICCAT、WCPFC等による国際規制の強化

乱獲による資源枯渇への反省から、ICCAT(大西洋まぐろ類保存国際委員会)やWCPFCといった国際機関による漁獲枠(クオータ)管理は、年々その実効性を高めています(※2, 3)。
近年の会合でも科学的データに基づく持続可能な資源利用が基本方針として確認され、一部魚種では規制強化が実施されました。これにより、許可された漁船のみが特定期間・海域で操業可能となり、漁場の集約と淘汰が進む一因となっています。

今後、注目すべき3つの成長エリア

カナダ東岸、ニュージーランド南方など高緯度地域が台頭し、「完全養殖」が安定供給の選択肢として重要性を増しています。
旧来の常識にとらわれない、新たな高品質マグロの供給源です。これらのエリアは、貴社の仕入れ戦略に大きな影響を与える可能性があります。

1. 北大西洋の新フロンティア:カナダ・ノバスコシア州沖

かつては希少だった大型クロマグロが、近年コンスタントに水揚げされるようになっています。特徴として、比較的低い海水温で育つことによる、引き締まった身質と融点の低い脂質が挙げられます。流通量はまだ限定的ですが、その特徴的な品質から、世界のトップレストランなどが注目しています。

2. 南太平洋の注目株:ニュージーランド南東沖

ミナミマグロの新たな漁場候補として、ニュージーランド南東のチャタム海膨周辺が注目されています。南極方面から流れ込む冷たく栄養豊富な海流が、質の高い脂を持つマグロを育むと期待されています。今後の資源調査と商業漁業の本格化が待たれる、潜在的な可能性を秘めた海域です。

3. 完全養殖技術の進化と商業化

近畿大学などの研究機関が確立したクロマグロの完全養殖(人工孵化→成魚)技術が、商業ベースでの本格的な拡大期に入りつつあります。天然資源への依存度が低いこの技術は、SDGsの観点からも大きな優位性を持つと考えられます(※4)。
2025年現在、品質が天然の最高級品とあらゆる面で同等になったとは言えないかもしれません。しかし、年間を通じた「品質・価格・供給量」の安定性という大きなメリットにより、特にホテルや量販店での需要が大きく拡大しています。

独自見解:プロが実践する「マグロの価値」を見抜く新基準

漁場のデータを追うだけでなく、これからのバイヤーには「脂の科学」「背景(ストーリー)」への深い理解が求められます。

なぜ「脂の質」が重要なのか?

マグロの価値は、脂の「量」だけでなく「質」も重要な要素です。特に注目されるのが脂の融点。例えば、今回注目したカナダ沖のような比較的低水温の海域で育ったマグロは、身が凍りにくくするために細胞内に不飽和脂肪酸を多く含む傾向があります。この脂は融点が低く、人の舌の上でとろけるような優れた食感と上品な風味を生み出すと言われています。
逆に、高水温の海域では脂が乗りすぎる場合、融点も高くなり、口の中に味が残りやすいと感じられることもあります。もはや「ボストン産」といった大雑把な産地名だけでなく、「どの海域で、何を食べて育ったか」が、マグロの価値を判断する上で重要な要素となるのです。

まとめ

本記事では、2025年12月時点での世界の高品質マグロ漁場の動向と、その背景にある要因を解説しました。気候変動と国際規制。この二つの大きな力が、私たちの知るマグロの世界地図をダイナミックに書き換えていると考えられます。

これからのバイヤーに求められるスキルは、過去の常識にとらわれず、常に情報を更新し、産地のさらに先にある「海域」や「漁法」までを見通す力です。本記事で示した動向とアクションプランが、貴社の仕入れ戦略を革新する一助となることを期待しています。

執筆者
宮田 貴広 (マーケティング担当)
北水株式会社にて、水産物の市場動向や食のトレンドに関する記事を執筆。データに基づいた客観的な分析を得意とする。

監修者
成川 晃 (鮮魚担当)
店舗や市場での勤務経験を含め、38年以上にわたり鮮魚の目利きと仕入れを担当。水産物各種に関する豊富な知識と経験を持つ。